「手段は運動じゃなくてもいい。心と体が健やかであることが大切!」有森裕子さんインタビュー

20 March 2018

「手段は運動じゃなくてもいい。心と体が健やかであることが大切!」有森裕子さんインタビュー

バルセロナオリンピックでの銀メダルやアトランタオリンピックでの銅メダルをはじめ、多くのマラソン大会で輝かしい記録を残してきた有森裕子さん。実際にマラソン大会で応援してもらったという読者をはじめ、多くの読者から「スポーツを通じて社会に貢献する女性」として推薦の声が寄せられた。そんな彼女が考えるスポーツとの付き合い方についてお話を伺った。


健康になる手段はスポーツじゃなくてもいい

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2018年2月に開催された東京マラソンのスタート地点。都庁前に設置されたスポンサー関係者が並ぶひな壇の最前列で、身を乗り出し、キラキラのポンポンを両手に大声でランナーに声援を送る有森裕子さんの姿があった。

「毎年大声を出して騒いでいるので、すっかり名物になってしまいました」と笑うけれど、4万人のランナーがスタート地点を通過するまでにかかる時間は20分以上。その間ずっと声を上げ続けるのは簡単なことじゃない。

多くのマラソン大会で参加者に力いっぱいエールを送ってくれる有森さんには、力をもらったというランナーも多い。また、「スポーツを通じて希望と勇気をわかちあう」ことを目標とした特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールドでは、アンコールワット国際ハーフマラソンのサポートなど国境を越えて社会貢献活動を行なっている。

2007年の東京マラソンを最後に現役を引退し、現在はスペシャルオリンピックス日本理事長などいくつもの顔を持ちながら、多くの人の「健康」を推進する活動をしている有森さん。現在のスポーツとの付き合い方について尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「私は仕事としてスポーツをしていたので、引退後はほとんどスポーツはしていないんですよ。でも、健康であるために日常生活でも意識的に歩いたり、階段を登ったり、荷物を両腕でバランスよく持つようにしたりと、そういう意識は身についているので、そのバランスが崩れない限り不健康にはならないと思います」


大切なのは、継続すること

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そもそも、有森さんはスポーツについて、「あくまでも心と体が健全であるための手段のひとつ」だと考えているそう。

「心と体を健全にする方法は、音楽やアートでもいいかもしれません。みんながわかりやすい方法のひとつが、体を動かすこと。歩くだけでもいいんです」

運動というとストイックなイメージが強すぎて、それで運動に一歩を踏み出せない人が多い。でも有森さんの考えでは、心と体を健やかにするために、朝起きて寝るまでの生活の中でエスカレーターの代わりに階段を使ったり、時には全身鏡で自分の姿をチェックしたりといった習慣だけでもいいと考えている。

「運動するか、しないか、の二択にしないほうがいいと思うんです。メンタルも含めて健康でいるためにできる、毎日のささやかな習慣なら、どんな人でも取り入れられますよね」

スポーツすることを目的にするのではなく、健やかであるための方法として、スポーツをしてみてもいい。有森さんの考えるスポーツは、とてもハードルが低い。

「例えば最近増えている大規模都市マラソンは、それまでのマラソン大会がエリートランナーのためだったのに対して、抽選だからと走ったことがない人も興味本位でエントリーしてしまう、間口の広さが魅力だと思います。走る目的は、美味しいものを食べたいとか、自分自身のチャレンジとか、なんでもいいんです」

「スポーツをしなきゃと気負わずに、もっと気軽な気持ちでいつもよりちょっと多く歩いたり、身体を動かすことを意識すればいいと思います。何よりも大切なのは、継続すること」

「これまでのスポーツは、専門性を見せすぎてきたと思うんです。関わりがない人は入って行きにくい世界だった。東京マラソンのように、アスリートじゃない人でも楽しめる機会を通じて、“これなら自分でもできそう”という幅を見せられたらいいのかなと思います。そういうハードルの低さがないと、いきなりスポーツには入っていけないと思うんです。ジムに行かなくても駅の階段でいいんですよ、と。そういう気づきを生むことで、より多くの人に健やかな心と身体を手に入れてほしいと思いますね」

各地のマラソン大会で市民ランナーたちに声援を送り、国際スポーツ戦略会議などの場ではスポーツを通じた国際社会への貢献や協力について考えながらも、有森さんが届けようとしているメッセージは、とてもシンプル。彼女の発信は、心身の健康を手に入れる人を増やしていくに違いない。

Photo : Kento Mori Makeup:Yuko Shimada Hair:Akio Matsumoto